仕事をする上で、様々な障壁に直面することがあります。中には、一見普通に見えるにもかかわらず、認知能力や対人コミュニケーション能力に課題を抱えている人もいます。
そのような状態を「境界知能」と呼び、この特性を持つ人は、職場で多くの困難に直面してしまうのです。
境界知能を持つ人々は、認知能力や対人コミュニケーションに課題を抱え、”仕事ができない”(難しい)と言われることがよくあります。
本ブログは、境界知能の人がどのような仕事上の問題に遭遇するのか、そしてその課題を乗り越えるにはどうすれば良いのかを探っていきます。
境界知能とは何か
まず初めに、境界知能とは一体どのようなものなのかを理解しましょう。
知的障害ではないが認知機能は低い
境界知能の人は、IQスコアが70~79程度(下図:IQスコア表参照)と、知的障害には該当しないものの、認知機能は平均より低い状態にあります。
このため、計算力や理解力、記憶力などに難があり、社会生活を送る上で様々な支障が生じてしまいます。
例えば、算数の授業で計算問題が解けなかったり、説明を聞いても内容が頭に入ってこなかったりするなど、日常的に困難を感じているのが実情です。
見た目では障害があるとは分かりにくいものの、実は大きな壁に直面しているのです。
- IQスコア 表
130以上 | きわめて優秀 | 全体の2.2% |
120~129 | 優秀 | 全体の6.7% |
110~119 | 平均の上 | 全体の16.1% |
90~109 | 平均 | 全体の50.0% |
80~89 | 平均の下 | 全体の16.1% |
70~79 | 境界知能 | 全体の6.7% |
70未満 | 知的障害 | 全体の2.2% |
発達障害を併発することも
さらに、境界知能の人の中には、発達障害を併発している場合もあります。
自閉症スペクトラム症や注意欠陥・多動性障害などを伴うと、認知機能の低さに加えて、コミュニケーション能力やこだわり行動など、別の課題が重なってしまいます。
このように複合的な困難を抱えているケースも少なくありません。発達障害の特性と境界知能の特性が相まって、社会生活をより一層難しいものにしてしまうのです。
二次障害のリスクも高い
境界知能の人は、周りから理解されにくいことも多く、孤立や心理的なストレスから、うつ病などの二次障害を発症するリスクも高くなります。
幼少期から課題を抱えていたにもかかわらず、適切な支援が受けられないことが原因の一つです。
二次障害に苦しむ人も多く、就労や社会生活を送ることが一層困難になってしまいます。
早期の支援と、周囲の理解が何より大切なのですが、残念ながらそうした環境が整っているとは言えない状況です。
境界知能は仕事できないのか
次に、境界知能の人がどのような職場の困難に直面するのかを見ていきましょう。
仕事の覚え方が遅い
境界知能の人は、認知能力が低いため、新しい仕事を覚えるのに時間がかかります。説明を受けても理解が追いつかず、同僚に比べて覚えるのが遅くなってしまうのです。
また、一度覚えた作業でも、次の日になると忘れてしまうこともあり、繰り返し同じことを教えてもらわなければなりません。
このように作業の定着が困難なため、周囲から理解されにくい状況に陥ることもあります。
コミュニケーションが苦手
コミュニケーション能力の低さも、境界知能の人が直面する大きな課題の一つです。
上司の指示の意図が掴めなかったり、適切な言葉が見つからずうまく伝えられなかったりと、人間関係の構築に支障をきたします。
また、発達障害を併発している場合は、さらにコミュニケーション上の困難が大きくなります。相手の気持ちが読み取れなかったり、自分の気持ちを上手く伝えられなかったりするのです。
感情コントロールが苦手
感情のコントロールも境界知能の人にとって課題となります。些細なことで落ち込んでしまったり、怒りっぽくなってしまったりと、感情の起伏が大きいのが特徴です。
このような感情コントロールの難しさは、人間関係を構築する上で大きな障壁となります。周囲から理解を得られず、孤立してしまうリスクもあるのです。
職場での対応策
境界知能の人がこうした困難に直面するものの、適切な対応があれば、充実した職場生活を送ることは可能です。
仕事内容の調整
境界知能の人に合った仕事内容を見つけることが何より重要です。認知能力に頼らず、マニュアル化された単純作業であれば、ストレスを感じることなく作業を続けられます。
例えば、データ入力やピッキング作業、製造ラインでの作業など、決まった手順を覚えればこなせる仕事は向いているでしょう。
一方で、臨機応変な判断を求められる仕事は避けた方が良いかもしれません。
作業環境の調整
作業環境を調整することで、境界知能の人がより能力を発揮できるようになります。雑音や刺激の少ない静かな環境を確保したり、マニュアルを分かりやすく整備したりするなどの工夫が有効です。
また、理解を促すためのツールを導入したり、コミュニケーションの方法を工夫したりすることで、スムーズな作業が可能になるでしょう。
境界知能の人一人ひとりに合わせた環境作りが大切なのです。
障害者雇用の活用
障害者雇用制度を活用することも一つの対応策です。障害者手帳を取得すれば、合理的配慮のもと働くことができます。
また、ジョブコーチによる就労支援を受けられたり、障害者就労支援事業所での訓練が可能になったりと、様々な支援メニューを利用できます。
このような制度を上手く活用することで、境界知能の人の就労を後押しできるのです。
境界知能の人に向いている仕事
それでは、境界知能の人に実際に向いている仕事にはどのようなものがあるのでしょうか。
データ入力・事務職
定型的な作業が中心となるデータ入力や一般事務職は、境界知能の人に向いている代表的な仕事です。マニュアル化された単純作業であれば、ミスを気にすることなく集中して取り組めます。
ただし、高度な事務作業やマルチタスクを要求される場合は適していません。自分のペースで落ち着いて作業に従事できる環境が何より大切なのです。
製造業・清掃業
製造業や清掃業など、決まった手順を覚えればこなせる作業も向いています。例えば、工場での組み立て作業や、ビルの清掃作業などがその一例です。
単純作業が中心となるため、新しい技術を覚える必要がありません。マニュアルに従って作業すれば良いので、ストレスがたまりにくいというメリットがあります。
配達業・運転手
配達業や運転手など、決まったルートを走るような仕事も、境界知能の人に適しています。コミュニケーションを多く必要とせず、マニュアル化された作業なので、落ち着いて取り組めるからです。
ただし、事故に気をつける必要があり、安全運転が何より大切になります。臨機応変な判断力が求められる場面もあるため、作業内容によっては適さない場合もあるでしょう。
ライター・クリエイター
職種 | 長所 | 注意点 |
---|---|---|
ライター | 自分のペースで作業可能 クリエイティビティを発揮できる |
スケジュール管理が必要 テーマに応じた対応力が求められる |
イラストレーター デザイナー |
細かい作業に向いている 創造性を生かせる |
要求に応える柔軟性が必要 デッドラインの管理が課題 |
意外かもしれませんが、ライターやイラストレーター、デザイナーなどのクリエイター職も、境界知能の人に向いている場合があります。
自分のペースで作業に集中でき、クリエイティビティを生かせるという長所があるからです。
ただし、スケジュール管理やデッドラインの管理、発注元の要求に応える柔軟性が求められるため、適性を見極めることが大切です。
作業環境を整えることで、能力を十分に発揮できるかもしれません。
総括:境界知能は仕事できないのか
境界知能の人は、認知能力や対人コミュニケーション能力に課題を抱えているため、仕事を続けていく上で様々な困難に直面してしまいます。
しかし、本人の特性を理解し、作業内容や職場環境を調整することで、能力を最大限に発揮できるはずです。
障害者雇用制度の活用や、合理的配慮のもと働く環境を整備することも有効な対策となります。境界知能の人一人ひとりに合った職場作りを心がけることが何より大切なのです。
また、社会全体で境界知能への理解を深め、支援の輪を広げていくことが求められます。そうすれば、境界知能の人も、一人の人間としての尊厳を守られながら、充実した社会生活を送ることができるはずです。